大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

上野簡易裁判所 昭和46年(ろ)4号 判決

少年 Y・G(昭二六・二・二一生)

主文

本件公訴を棄却する。

理由

本件公訴事実は、「被告人は昭和四五年六月二八日午後六時二五分ごろ、三重県公安委員会が道路標識によつて追越し禁止の場所と指定した三重県阿山郡○○町○○○○内の名阪国道において、普通乗用自動車(大阪○ろ○○-○○)を運転して普通自動車を追越したものである。」というのであつて、右は道路交通法(以下単に法という。)第三〇条第四号、第九条第二項、第一一九条第一項第二号、第一二五条第一項別表第二項、同法施行令第七条、昭和四五年三重県公安委員会告示第四号に該当するが、本件は二〇歳未満の少年について反則通告制度の適用がなかつた昭和四五年法律第八六号「道路交通法の一部を改正する法律」(以下単に新法という。)施行前(新法は昭和四五年政令第二二六号により同年八月二〇日から施行)の事犯であつて、被告人はたまたま右行為の当時少年(一九年四月余)であつたため、前記新法による改正前の道路交通法(以下単に旧法という。)の下で法第一二六条、第一二七条所定の告知または通告の手続を経ることなく、少年事件として家庭裁判所に送致され、家庭裁判所の昭和四五年一二月二二日付決定により刑事処分相当として検察官に送致され、そして、被告人が成年に達した後である昭和四六年二月二七日本件公訴が提起されたものであることは本件記録によつて明白であり、しかして、新法附則第七項によれば、新法の施行前にした反則行為に関する処理手続はなお旧法によるものとされているところ、さらに本件記録によれば、本件において被告人が旧法第一二五条第二項各号に該当しない者であることもまた明らかである。

ところで、本件のごとく旧法当時の事犯であつて、二〇歳未満の少年に対して反則通告制度の適用がなかつた旧法の下で、家庭裁判所が少年法第二〇条により刑事処分相当として事件を検察官に送致した後、被告人が公訴提起前に成人に達した場合には、先ず被告人に反則金を納付して刑事処分を免れる機会を与えるため、あらためて被告人に対し法(旧法、以下同じ。)第一二七条の通告手続をなすべきであつて、右手続を経ることなくして検察官は公訴を提起することができないものと解するのが相当である。けだし、法第一二五条は反則者から少年を除外していないのみならず、成人の反則事件にあつては、法第一三〇条によつて、同条各号に規定する除外事由がある場合を除き、法第一二七条第一項または第二項後段の通告と第一二八条第一項に規定する期間を経過することが公訴提起の要件とされているのであつて、成人に対してはこれにより刑事処分を免れる機会を与えているのであるから、このような法規は明文の除外規定がない限りこれを一律に適用することが法の要求する公平の理念に合致するものというべく、しかして、一方、少年法第四五条第五項の規定も、同法第二〇条により家庭裁判所から検察官に送致された事件がその後において訴訟条件を具備しないことが判明した場合にまで検察官に公訴提起を義務づけているものとは考えられず、また、法第一三〇条も特にこの場合を除外していないのである。

しかるに、本件記録によれば、本件ではもとより法第一三〇条各号の除外事由に該当する事案がないにもかかわらず、家庭裁判所より検察官へ送致後被告人が成年に達した後において、右の通告手続がなされた事実は認められない。そうすると、公訴提起前に成年に達した被告人に対して反則通告手続を経ることなくなされた本件公訴提起の手続は、前記道路交通法の規定に違反したため無効であるといわねばならない。

よつて、刑事訴訟法第三三八条第四号に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 酒井康夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例